私たちは大人になった
やっとのことでアウトレットに着いてからも、安川君のペースに心は乱される一方だ。
「これ、かわいい」
「いや、それならこっちの色だろ」
「ええっ、ちょっと派手すぎない?」
「そんなことないって。これだと、今着てるセーターと色も形も似てるじゃん。せっかくアウトレットで安く買うんだから色くらい冒険しろって」
「うーん、でもやっぱりこっちの方が…」
「あっ、すいません。このセーターに合うスカートあります?」
「私を置いて勝手に話進めないでよ!!」
「まあまあ、悪いようにはしないから」
店員さんを巻き込んで、ノリノリで服を選ぶ安川君に乗せられるまま、自分では絶対に選ばないようなコーディネートを試着する。
元彼は私の買い物にはまるで興味がなかったから、新鮮だ。
「どう?変じゃない?」
「留美チャンは何でも似合うなー」
「全然感情こもってないじゃん」
「うそうそ、本当に似合ってるよ」
そして、勧められるがままに、一式買ってしまった。
確かにいつも似たような服ばかり買ってしまいがちだから、たまには人の意見を聞くのもいいかもしれない。
「荷物貸せよ、持ってやるから」
「えっ!そんなの悪いし」
「いいんだよ、その方が俺がいい男に見えるだろ」
そう言われて、仕方なく「じゃあ」と小さい方の紙袋を渡せば「そっちじゃない」と大きな紙袋も一緒に奪われた。返してもらおうとバタバタしていたら「恥ずかしいから、大人しくしろ」と取り合ってもらえなかった。荷物を持ってもらうなんて、それこそ経験がなさ過ぎて恥ずかしいというのに。
「あっ、いたっ」
「どうした?」
「いや、よろけた拍子に足ひねった」
「大丈夫か?疲れたし少し休むか」
「うん、ごめんね」
「ホラ、捕まれって」
「……」
「また捻ったら今度はおんぶな」
「あ、ありがと」
挙げ句の果てに腕まで組んでしまった私たちは、どっからどう見てもカップルに見えると思う。
安川君の言動にあまり計算されているような節はないが、上手く私が断れないような言い方をしてくるのが恨めしい。
そんな彼の無邪気な強引さに時折溜息を吐きつつも、気を使わないで言いたいことを言い合って過ごした一日は予想外に楽しかった。
───だから、つい帰りの車内で余計なことを言ってしまったのだ。