私たちは大人になった
帰る途中にファミレスに寄る。
夕食は、私がごちそうした。
安川君は「そんなのいいよ」と言ったけれど、車を出してもらったから当然だ。
こういう時にきちんとごちそうされてくれるのも、心地がいい。
相手が友達でも恋人でも、一方的に何かしてもらうだけの関係は長続きしない。
元彼にはそれを理解してもらうのに半年かかったのだけれど。
ファミレスを出て、私のマンションまで送ってくれるという安川君に甘えて、安心して助手席で揺られる。
あと40分くらいで到着すると、車のナビが告げたので、ぼんやりと窓の外が見慣れた景色に変わるのを待っていた。
ふと、なんとなく一人の部屋に帰るのが寂しくなった。一日騒がしくしていたせいだ。寂しさを誤魔化すように安川君に話し掛ける。
「なんだかんだで、沢山買っちゃったな」
「留美の買い物するとこは見てて面白かった」
「そう?ふつうじゃない?」
「すんげー迷ってたのに、最後は大体買う!ってなるとことか」
「買っておかないと、ずっと後悔する時あるんだもん」
「あー、わかる」
「お金で解決できることは、解決しておきたいの」
「富豪かよ」
「そのために働いてるんだもの」
「仕事も忙しいと、なかなか金使う時間もないしな」
「その割に貯金は貯まらないけどね」
「不思議だな」
ぼーっとしたまま、思ったことを口にする。疲れていると、頭が途端に働かなくなるのは、私の悪いところだ。
「あ-、帰りたくない…」
何気なく言葉にした途端、自分の発言が誤解を招きそうなものだったことに気づく。慌てて、運転席の安川君を見れば、嬉しそうにこちらに視線を向けていた。
「留美…」
「いや、明日から仕事やだなー的なやつよ。深い意味はないの、深い意味は!!」
「今日は土曜だから、明日は日曜だぞ。休日出勤?」
「いや、言葉の綾ってやつでしょ!」
慌てて取り繕うも、それで「ああそうですか」と言うような男ではない。
「もう、遅い。俺、今ので完全に勘違いしちゃったもん」
「しないで!!勘違いしないで!!」
必死に叫ぶ私を無視して、車は途中の路地に入って停車した。
「俺も楽しかった。帰りたくない」
ハンドルにもたれ掛かって、こちらを見つめる安川君の、見たこともないような切ない視線に捕まって。
思わず手を伸ばしてしまったのは。
今日一番の失敗だったかもしれない。