私たちは大人になった
帰りたくない男女が、行く先なんてだいたい決まっている。
そして、言い方は悪いが、やることなんて一つしかない。
正気に返る間もなく、近くのホテルに入ってそのままベッドを共にする。
昔のサークル仲間と、しかも友達の元彼と寝るなんて最悪だと思いつつ、「まあいいか」と素直に彼に体を委ねる自分がいた。
どうせお互いに恋人がいるわけでもない。
一晩くらい、愛だの恋だの抜きにして、抱き合ってみてもいいじゃないか。
安川君と一日すごしただけで、いつの間にか私も安川教に入信してしまったらしい。
何となくデートして、いい雰囲気になったから、セックスする。
難しいことを考えなくても、今日だけはいいことにしよう。
「ねぇ、変なこと聞いていい?」
「ん?なに?」
情事の後の気怠い体でベッドにごろりと寝転んだまま、フッと頭の中に浮かんだ疑問を解消したくて仕方なくなった。
「なんでこんなに気持ちいいの?」
「ははっ」
「ねえ、なんで?変な薬とか使った?」
「そんなの使うか」
「うそ」
「何のための嘘だよ」
安川君は笑って答えながら、腕枕していないほうの手で嬉しそうに私の髪を梳く。腕枕なんて恥ずかしいから断固拒否したのに、昼間のペースで押し切られたのだ。
「ひょっとして、あれ?背徳感のせい?恋人でもないのに、こんなことしてるから?」
「んー、それは俺の経験上、違うと思う」
何とか流れる甘ったるい雰囲気を払拭したいのに、安川君は私にくっついて離れてはくれない。
「俺の経験上って?」
「そりゃ、浮気なんて背徳感満載でしょ」
「ああ、そっか。気持ちよかった?」
「確かに気持ちよかったけど、それほどでもなかった」
「ふーん」
自分がされたわけではないけど、正直浮気の経験談なんて、すすんで聞きたい話ではないから、スルーする。