私たちは大人になった
「だから、違うと思う」
「何が?」
話している途中でだんだんと眠たくなってきた私は、無責任にもそもそも何の話だったか、忘れかけていた。
「単に俺たちの相性がよすぎたんだと思う」
「ふーん…って、何真顔で言ってんのよ!」
ウトウトしながら聞いていたら、妙なことを言い出すから、一気に目が覚めてしまった。
「俺も今までで一番気持ちよかった」
「だからって」
「留美は魔法でも使った?」
「メルヘンかよ」
「だろう?じゃあ、それ以外ある?」
「いや、ホラ、私も恋人以外とするのはじめてだったから…いつもと違う雰囲気だったし…」
必死に何か要因を探す私を、面白そうに見つめる安川君は、今度は私が飛び起きるほどの爆弾発言を仕掛ける。
「よし、わかった、今から恋人になろう」
あんぐりと口を開けたまま、呆然とする私を組み敷いて、安川君はおでこにそっとキスを落とした。
「恋人になってからも、ちゃんと気持ちいいか、今から試そう」
「………そっ!?」
そんな滅茶苦茶なと続くはずの言葉は、彼の唇に塞がれて美味く言葉にならなかった。
引いたはずの熱がすぐに戻ってくるような激しい口づけに、反論する気力を奪われる。
「デートもしてみるもんだな」
「…恐ろしく流されてる気がする」
「流されたらいけないの?俺は昼間も夜も相性抜群だと思ったけど。結果オーライだろ」
唇を離して、安川君は嬉しそうに笑った。
悔しいけれど、心の底でその通りだと思っている自分が居た。
「留美が深く考えはじめる前に…」
「あっ…ちょっと、まっ…」
再開された甘美な刺激に、私の脳みそはすぐに思考を停止する。
そのことが、いつになく心地よかった。
やがて、とろけそうになる脳みその片隅で私は思う。
私たちは大人になった。
だから、知っている。
考えても無意味なことが、この世にいくらでもあるのだと。