私たちは大人になった

「そういう磯村こそ、油断してると浮気されるぞ?」
「は?浮気も何も付き合ってる人いませんけど?」
「何?また、芳樹(よしき)とは喧嘩中なわけ?」
「いや、それ…」

何年前の話よ?と言うところを突然背後から差し出された手に遮られる。

「そうなんだよ、かなえにすっかりへそを曲げられちゃって」
「おお、芳樹!遅えよ」

安川君が私の背後に向けて手を上げて歓迎する。振り返ると、差し出された手の主が視界に入った。その男は当たり前のように私の左隣の席に座った。狭いソファ席ゆえ、肩と肩が触れあう位の距離だ。

「ちょっと、どういう…」
「かなえ、いい加減に機嫌を直してくれよ」
「なになに?芳樹、浮気でもしたのか?」

安川君が興味津々に尋ねてくる。
私が口を挟む隙を与えず、隣の男がそれに答える。

「浮気なんてするはずないだろ。俺はかなえ一筋だよ」

その歯の浮くようなひと言に、私は唖然とした。人は驚きすぎると本当に口が開きっぱなしになるのだと、初めて知った。

私が言葉を無くすほど驚いた理由。





───それは、今隣に座る男が、三年前に別れたはずの元彼だからである。
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