私たちは大人になった

結論から申し上げると、私はこの一年後に鈴木から本宮に姓を変えた。

居酒屋に行った日から一ヶ月後(要するにホワイトデーだ)に、もう一度告白されて、付き合うことになり。
半年後の私の誕生日には、プロポーズされて、結婚することになった。

早すぎる展開にスピード婚だの、快速電車へ乗り換えただの揶揄されつつ、さらにはオメデタまで疑われたのだけど。
私がプロポーズを快諾した理由は、とてもシンプルだ。

“彼が私を幸せにしてくれそうだったから”

その理由を堂々と口にしたら、打算的だの、愛がないだの色々と言われてしまいそうだなと思うから、周りに理由を聞かれたら曖昧に微笑むだけにしておいた。


でも───

『この世のカップルの大半はきっとどちらかの片思いだよ。お互いに同じくらい相手の事が好きだなんて、それこそ少女漫画かドラマの中の幻想か奇跡だと思うんだけど』

まだ好きかどうかわからないから付き合えないと言う私から無理矢理イエスを引き出して。

『君に僕を愛してくれとは言わない。ただ、この前みたいに少しだけヤキモチを妬く程度に、僕のことを好きでいてくれれば構わないから』

付き合っている最中も、私を甘やかし続け。

『ほら、愛されて結婚した方が幸せになれるって気がしてきたでしょ?』

まんまと私の薬指に指輪まではめることに成功した彼ならば。

きっと「そんなの言いたい奴に言いたいように言わせておけばいい」と微笑みながら言うのだろう。


“ズルくなってもいい”

彼の言葉の意味を理解したときには。
私は彼に甘やかされ過ぎて、もう元の自分には戻れなくなっていた。

誰かを愛して尽くしても、愛してくれる誰かに大切にされても、きっと、どちらも同じように幸せで。
どちらの方が偉いとか、尊いとか。
そんな差はないのだと。

それが分かるまで、私もようやく大人になったのかも知れない。
< 24 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop