私たちは大人になった

「また言い方を間違えたみたいだ。俺とやり直して、もう一度最初に会ったときから」
「は?」
「ほら、大学のサークルの飲み会で初めて会ったあの日から」
「そんなの、無理でしょ?」
「そう?かなえならできるよ、もう一回まっさらな目で今の俺を見て」

何をまた言ってるんだと、私は芳樹を唖然として見上げる。芳樹は構うことなく言い切った。

「かなえ、初対面からやりなおそう?」

そんな、無茶な。
と思いつつも、芳樹の自信たっぷりの表情に、自然とドキドキしている自分が居る。

何度も言う必要はないが、やっぱり見た目はドストライクなのだ。
…いや、正直に言えば見た目だけではない。やたらと行動的なところも、ちょっぴり強引なところも、時々無邪気に笑うところも、何から何まで私好みだ。知っているだけに、ぐうの音も出ない。


「初めまして。俺は宇野芳樹って言うんだけど、連絡先教えてくれる?」
「ちょっと、芳樹、何いっ……んんんーーっっ」
「間違えてるよ。かなえは初対面で名前呼び捨てにしたりしないでしょ?」

芳樹が私たちが出会った日に交わした通りの挨拶をする。そして、反論しかけた私の口をもう一度手で塞いでしまった。
やや強引で大人げないけれど、芳樹はどこか楽しそうだ。その笑顔を見て、本当に大人になりきれていなかったのは私なのだと気づく。

さっきから、過去のことだ、もう終わったことだと必死に自分自身に言い聞かせていた。
たしかにあの頃の芳樹にはもう会えないし、会ってもときめかないだろう。
ならば、今の芳樹ならは、どうだろう?

「あれ?連絡先を軽々しく聞いてくる男は信用ならないからダメ、って言ってくれないの?」
「ん、んんんーーーっっ(何か言いたくても口を塞がれてるっつーの!)」

私のその姿を見て、芳樹がひとしきり笑ったあとで、手を離す。
考えるまでもなく、答えは出ているような気がした。

上書き保存してしまったのなら、もう一度上から書き直せばいい。簡単な事だ。

「ごめん、かなえ。ふざけすぎた。許して」
「ぜぇったい許さない!!」

憤慨しながらも、私は思うのだ。



私たちは大人になった。

だから、もっと自由に恋愛をしてもいいのかもしれない。
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