オオカミ副社長は蜜月の契りを交わしたい

智也も自分の置かれている状況がわかっているなら理由をつけて断ればいいのに、好きな人を目の前にして何も言えなくなったんだろう。

しかし私の知っている智也は同い年とは思えない落ち着きがあった。

それがどうだろう。今はその面影すらない。

完全に香奈の尻に敷かれている感じだ。

どちらにせよ、今日両親に合わせたら私の計画は台無し。

うまく行くものも行かなくなりうる。

それでは困るのだ。

だが何もわかっていない香奈はあからさまに不機嫌になる。

「なんで?」

こういう返しが来るのはわかっていたが、私は適切な答えを用意していなかった。

こんな時こそ浩太郎さんがいてくれたらと心底思った。

そしてない知恵を絞って出た答えは……。

「モノには順序というものがあるの」だった。

「順序?」

私はちらっと智也を見たが、その目が「俺には負い目があって何も言えない」と言っているようだ。

「確かに二人の気持ちが結婚に向かっているのはよくわかる。だけど早まらないで欲しいの。
どうせ香奈のことだから父さんたちに彼を合わせること言ってないんでしょ?」

香奈はうんと頷いた。

「結婚は勢いでするものじゃないと私は思うの。だからまずは父さんたちに会わせたい人がいるから時間を作って欲しいって聞くべきなんじゃない?それの江口君だってうちの両親に会うならそれなりの服装で挨拶するんじゃない?こんな普段着じゃ印象悪くなるわよ」

実際は服装以前の問題だと思うけど……。

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