オオカミ副社長は蜜月の契りを交わしたい
「あの……私が10年付合っていた彼と別れたのはご存じだと思いますが、まだ彼の事を吹っ切れたわけではない時にいい加減な気持ちで安易にお付き合いをするのは副社長に対して失礼ですし、今はとてもじゃないが新しい恋が出来る状態じゃないので申し訳ありませんがこの――」

「浩太郎」

私が話をしているというのに割って入ってきた。

「はい?」

「仕事が終わってからもそうだがずっと俺の事副社長って言ってたよな。俺はそのカタッ苦しい呼び方が嫌いなんだよ。せめて会社以外は副社長ではなく浩太郎と呼んでくれよ」

私はそういうのが出来ないから話そのものをお断りしようとしているのに人の話を聞いていないのかわざと無視しているのか、とにかくグイグイくる。

「ですから――」

「ほら、呼んでみてよ」

だめだ、完全にスルーだ。だからといって私もスルーしていいかといったらやはり副社長という肩書きにはどうしても逆らなくなる。

「こ、浩太郎さん」

緊張して噛んでしまった。

「全然ダメもう一回。それとさん付けはいらないから」

な、何でハードルあげるの?

「……浩太郎?」

副社長は私の顔をじっと見つめ小さく溜息をこぼす。

「な・ん・で名前の後ろにクエスチョンが付くんだよ。クエスチョン外せ!」

今の言い方がなんか素の副社長に見えて緊張した気持ちがフッと消えた。

「浩太郎」

ちょっと控え目だけど副社長の目を見て名前を呼ぶと副社長の顔がぶわっと赤くなった。
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