オオカミ副社長は蜜月の契りを交わしたい
仕事を終え私たちが向かったのは小洒落た飲み屋『ベルツリー』

元々は『炉端(ろばた)すずき』っていう名前だったんだけど、息子の代にかわり店名もすずきをそのまま英語にしただけの何のひねりもない名前に変更。

だが味は先代の時から変わらず美味しくて私と里香子が唯一行きつけと言える店だ。

「え?!何それ」

里香子は締まりのない口で私を見る。

「だよね~~」

「だってさ~彼……というか元カレ?付き合い長かったよね」

「うん……10年」

年数を聞いて里香子は締まりのない口に加え眉間にしわを寄せ、今にもくしゃみをしそうな変顔だ。いつもなら笑えるこの顔も今日はさすがに笑えない。

そして別れた理由を話すと里香子はホラー映画でも観たかのように顔を強ばらせる。

「信じられない。マジ信じられない」

私だって未だに信じられない。いや、信じたくない。

頭の中はモヤモヤするし、心のどこかでまだ思い留まってやっぱりやり直そうと言ってくれるんじゃないかってスマホの着信を気にしていに。未練タラタラだ。

でもメールも電話もゼロ。

「里香子~~。私泣きたい」

「うんうん。泣け泣け」

「でもここじゃ~~泣けないよ」

「だな~。じゃあ……飲め飲め」

「うん。飲む」
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