オオカミ副社長は蜜月の契りを交わしたい
「な、なんで私がダメ女なのよ」

「男に逃げられたか何だか知らないが、まわりが美味しく酒を飲んでる場所で初対面の男に大きな声で悪態ついてダメ女以外他に名前あんの?」

さっきまで店内はがやがやしていたが私が文句を言い出した途端、店の雰囲気が一気に悪くなったのは言い訳のしようがない事実だ。

でも雰囲気を壊したという点ではこの男だって一緒だ。

「じ、自分だって場の雰囲気を乱してるじゃない」

男は吐き捨てる様な溜息をつくと鋭い視線だけを私に向けた。

「確かに悪くした。でも俺は認めてる。アンタにダメ男と言われても反論なんてするつもりもない。だけどアンタもかなりのダメ女だ。そんなんだから男に振られ――」


パシッ――


無意識だった。気がつけば男は自分の頬に手を当て私の右手はジンジンと痺れに似た痛みを感じていた。

それと同時に何かがこみ上げてくる。

智也にこんなダメな自分を見られてフラれたなら仕方がないと思う。

でも心のどこかで別れた事実を認めたくなかった。別れてなければこんなみず知らずの男に悪態ついたりしなかった。

こんなはずじゃなかった。

そんな思いが一気にあふれて関係ない人にとんでもない形で八つ当たりをしてしまった。

本当は10年も付合ってなんの前触れもなく別れを突きつけた智也にビンタしたかった。

私の取った行動は間違いなくダメ女だ。



「ご…ごめんなさい。私――」



我に返った私は右手の持って行き場に困ったようにその場で固まり、必死に涙を堪えながら言葉を絞り出した。

すると男はなぜか私にではなく里香子に声を掛ける。

「彼女を頼む」

里香子は「はい」と返事をすると「遥、帰ろう?」と私の肩を軽く叩いた。
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