嘘つきな君
深い沈黙が私達を包む。
それでも、しばらく私を見つめていた彼だけど、再び月を見上げた。
柔らかい風が頬を撫でる。
風に乗って、ジャスミンの香水の香りが胸いっぱいに広がる。
途端に、息もできない程胸が締め付けられた。
それと同時に、怖くなった。
彼が、どこか遠くに行ってしまいそうで。
隠れてグッと唇を噛み締めた。
すると、小さく息を吐いた彼が口を開いた。
「――…数日前、以前一緒の映画を携わったチームの人から連絡があった」
「――」
「もう一度、一緒に映画を作らないかって」
真っ暗な部屋の中に響く、彼のハスキーボイス。
その言葉に、寂しさが伸びる。
不安が増幅する。
「その時、思い知らされた。諦めたつもりだったのに、その時の俺は酷く揺れていた――戻りたいと強く思った」
「でも、常務が会社を継がなければっ」
不安が的中して取り乱したように、声を上げる。
言葉に詰まった私を横目で見下ろす彼の瞳に、不安そうな私が映った。
まるで縋りつく子供の様な私が。