嘘つきな君
「――っ失礼します!!」
そう言い残して、そのまま逃げる様に談話室を後にする。
今にも転びそうな覚束ない足取りで、後ろを振り向かずに駆けた。
そのまま駆け込む様にバタバタと勢いよくエレベーターに飛び乗る。
一気に明るくなった世界に目を萎めながら、乱暴に1階のボタンを連打して扉を閉めた。
動き出したエレベーターの中で、糸が切れた操り人形の様に、その場に崩れ落ちる。
足に力が入らない。
驚いたからじゃない。
恥ずかしかったからじゃない。
ただ、自分の中に生まれた気持ちが制御できない。
事実。
あの手の暖かさが、嬉しかった。
嬉しくて、堪らなかった。
「どうなってんのよ……私」
思わず自分の体を抱きしめて、そう呟く。
自分の気持ちがどこに向かっているか分からない。
自分の事なのに、自分自身が分からない。
この息も出来ない程の胸の痛みの意味が分からない。
みんなの憧れの彼が、私にだけ心を開いてくれて嬉しかった?
誰も知らない話を、私にだけしてくれて嬉しかった?
それは、単なる優越感?
それとも、辛そうな彼を見て同情でもしたの?
例え、そうだとしても。
今胸の中にある気持ちとソレは一致しない。
それは、こんなにも甘い痛みを生まないはず。
「神谷……大輔」
思わず彼の名前を呼ぶ。
高鳴る胸を押さえて、ぎゅっと瞳を閉じた。
そして、自分自身をギュッと抱きしめて彼を思った――。