嘘つきな君
ふと、常務の秘書になった時の事を思い出す。
あの時の言葉と一緒に。
『会社は恋愛の場所じゃない』
それは暗に、職場ではそういう関係を誰とも持たないと言っている。
というか、彼はきっとそういう考えすら持ち合わせていない。
もし、そうやって迫ってこようとする女がいれば、彼は簡単に突き放すだろう。
第一、彼は次期社長という立場だから、そこらへんの社員に手を出すなんて言語道断。
そう思うと、やはり彼とは住む世界が違うのかもしれない。
だったら、今私の心の中に生まれたこの気持ちも、常務にとっては邪魔でしかないもので。
ぶつけられても、困る代物でしかない。
――きっと、私の中に生まれたこの気持ちは恋。
認めたくなくて見えない様にしていたけど、もう認めざる負えない。
だけど、気づいた瞬間八方塞がりになる。
ただの、荷物でしかなくなる。
きっと、認められなかったのは、彼の秘書になった時に聞いた、あの言葉が頭の隅の方に残っていたから。
心のどこかで、そうならない様に無意識にブレーキをかけていたんだ。
傷つきたくないから、認めない様にしていたんだ。
だけど、昨日のあの出来事で、私のブレーキはいとも簡単に外れてしまった。
その途端溢れた気持ちが、両手に持ちきれない程になる。
底なしの沼にハマる様に、どんどん堕ちていく。
「やっぱり、悪魔」
あんな事されて、好きにならない方が不思議だ。