嘘つきな君
それからフラフラとトイレに向かったが、その時、なんの前触れもなく一度視界が揺れた。
思わず吐きそうになって口に手を当てるが、なんとか踏み止まった。
「うぅ~……やっぱり少し飲みすぎたかな」
洗面所の前で大きく息を吐きながら、今にも出てきそうなものを必死に耐える。
久しぶりにこんなに飲んだせいでもあるし、無茶な飲み方をしているせいでもあると思う。
それでも今日は飲まずにはいられない。
今にも不安で潰れてしまいそうな心を落ち着かせる精神安定剤なんだから。
「今からウコン飲んでも効くのかな~」
どこか覚束ない足取りでトイレを出て、店まで続く廊下を歩く。
とりあえず席についたら、お水を飲もう。
そんな事をぼんやりと考えつつ、トボトボと歩きながら窓の外に見える夜景を横目に見ていると――。
「――え? わっ、きゃぁっ」
突然、磨き上げられた大理石の床に足を取られた。
咄嗟に踏ん張ろうとしたけれど、酔いの回った体には無理だった様で無様にもそのまま倒れ込んだ。
ビタンと可哀想な音と共に、冷たい床に両手をつく。
外が雨だったからだろう、床が濡れている。
「痛っ……」
鈍い痛みがジワジワとそこら中に広がる。
それと同時に、派手に転んだ事で一気に酔いが回って、胸の奥から何かがせり上がってきそうになった。