嘘つきな君
「もぅ、本当羨ましい~!! あの顔と体形なら、そこらへんのモデルより売れるわよ。きっと」
「あはは……」
「あんなイケメンと一緒に仕事できるなんて、芹沢さん運良すぎ」
頬をピンク色に染めたメイクスタッフ達が、きゃぁきゃぁと乙女な心を全開にする
苦笑いを浮かべながら、遠くで他のスタッフ達と何やら話をする常務を盗み見る。
やっぱり、誰が見ても素敵なんだな。
それに加えて、仕事もできて、御曹司とくれば。
そりゃ、高嶺の花にもなるよね。
つい最近までは、ここまで並べた言葉の後に、『でも性格は最悪』って思ってたのに。
今では、思い浮かばない。
本当は優しい事、知ってしまったから。
ただ不器用なだけだって、知ってしまったから。
それに、あの日、少しだけ見えた彼の心の闇。
ようやく掴んだ夢から引き離されて、やりたくもないポストに就かされた。
その事を少なからず恨んでいる。
亡くなった、お兄さんの事も。
あの日は、仕事はちゃんとするとか言っていたけど。
きっと今も、戻りたいと思っているはず。
あのスクリーンの向こうに、戻りたいと。
その証拠に、少なからず彼の顔はいつもより生き生きとしている様に見える。
それは、この場所が彼の元いた世界に少し似ているから。
沢山のライトに小道具にカメラ。
スケールは全然違うだろうけど、今この現場は少なからず、彼が戻りたいと思う世界と似通っている。
だから、彼はあんなにも楽しそうなんだと思う。