嘘つきな君

「もぅ、本当羨ましい~!! あの顔と体形なら、そこらへんのモデルより売れるわよ。きっと」

「あはは……」

「あんなイケメンと一緒に仕事できるなんて、芹沢さん運良すぎ」


頬をピンク色に染めたメイクスタッフ達が、きゃぁきゃぁと乙女な心を全開にする

苦笑いを浮かべながら、遠くで他のスタッフ達と何やら話をする常務を盗み見る。


やっぱり、誰が見ても素敵なんだな。

それに加えて、仕事もできて、御曹司とくれば。

そりゃ、高嶺の花にもなるよね。


つい最近までは、ここまで並べた言葉の後に、『でも性格は最悪』って思ってたのに。

今では、思い浮かばない。

本当は優しい事、知ってしまったから。

ただ不器用なだけだって、知ってしまったから。


それに、あの日、少しだけ見えた彼の心の闇。

ようやく掴んだ夢から引き離されて、やりたくもないポストに就かされた。

その事を少なからず恨んでいる。

亡くなった、お兄さんの事も。


あの日は、仕事はちゃんとするとか言っていたけど。

きっと今も、戻りたいと思っているはず。

あのスクリーンの向こうに、戻りたいと。


その証拠に、少なからず彼の顔はいつもより生き生きとしている様に見える。

それは、この場所が彼の元いた世界に少し似ているから。


沢山のライトに小道具にカメラ。

スケールは全然違うだろうけど、今この現場は少なからず、彼が戻りたいと思う世界と似通っている。

だから、彼はあんなにも楽しそうなんだと思う。

< 131 / 379 >

この作品をシェア

pagetop