嘘つきな君
恨んでいるのかな?

この会社を。

自分の運命を。


そう思うと、チクリと胸が痛む。

まるで、神谷グループに属する自分までもが否定されているみたいで――。


「でも、あの部類の男は観賞用だな~」

「え?」


自分の世界に浸っていたら、ふと隣から声が聞こえて我に返る。

視線を隣に向ければ、腰に手を当てながら神谷常務を見つめるメイクスタッフがいた。

そして、ポカンとする私を見て小さく笑いながら。


「だって、あんな人と付き合えるわけないじゃん」

「――」

「住んでる世界が違うよ。日本の未来を背負う一流企業の次期社長。私達一般市民には遠い世界じゃない」

「でも……」

「間違って恋にでも落ちたら、辛いだけじゃない。きっと、背負うものが大きすぎて、平凡な私はきっと押し潰されるか、消されるね。そんな恋、私ならまっぴらゴメンだな」

「――」

「それこそ、人魚姫と王子様みたいなものよ」

「人魚姫……?」

「身分違いの恋。叶わない恋。手を伸ばしてしまった人魚姫は、泡になって消えるしかない。そういう運命よ。そう思わない?」


立ち尽くす私に、同意を求める様に視線を向けた彼女。

だから、ただ頷くしかできなかった。

その言葉を理解する前に――。

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