嘘つきな君
ザワザワと世界が騒がしい。
私の隣にいたメイクスタッフも、いつの間にか、いなくなっていた。
「住む世界が違う、か……」
分かっている。
そんな事、初めから。
彼は大企業の御曹司で、私はただの一社員。
雇う側と、雇われる側。
雲の上の存在。
何を、いい気になっていたんだろう。
少し自分に素を見せてくれたからって。
浮かれて恋心なんて抱いちゃって、バカみたい。
初めて会ったのが、プライベートの彼だったから。
周りのみんなとは、少しだけ彼の見方が違っていたのかもしれない。
普通の人だと思って接していた。
悪魔みたいな嫌な男で、ただの先輩の友人だって。
でも、忘れちゃいけなかったんだ。
遠い世界の人だって事を。
手の届かない人だって事を。
うっかり恋に堕ちてしまった私は。
バカでしかない。