嘘つきな君

「待って! 常務っ」


私の悲痛な叫びも、彼には届かない。

そのうち見えなくなった姿に、ガクリと項垂れる。


酷い。

話すら、まともに聞いてもらえなかった。

迷惑だと言わんばかりの顔で、突き放された。


胸が痛い。

心が泣いている。

零れた涙が止まらない。

受け取ってもらえなかった『好き』が、ポツンと私の心の中で立ち尽くしている。


後悔ばかりが募る。

募るのに、心の中にある『好き』は消えてくれない。


行き場のない想いが止まらない。

まるで雪の様に降り積もって、私を動けなくする。


どうして、こんなにも好きになってしまったんだろう。

こんなに涙が出るほど、好きになってしまったんだろう。

どうして、伝えてしまったんだろう――。


「あの……お客さん?」


そんな中、心配そうに私の方に振り返ったタクシーの運転手の声で我に返る。

その声に、慌てて涙を拭って小さく謝りながら目的地を告げる。


すると、ゆっくりと動き出したタクシー。

移り変わる景色を見ながら、ポツリと呟く。


「バカだなぁ……私」


分かっていたのに、抑えきれなかった。

その代償が、これ。

分かっていた事なのに――。


「ふふっ」


自嘲気な笑い声が口から漏れる。

耐えきれずに流れる涙を、もう拭う気力も無かった――。


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