嘘つきな君

2つの未来

「ねぇ、ちょっと食べ過ぎじゃない?」


ガツガツと目の前の肉を貪る私を見て、茫然とした顔でそう言った仁美。

それでも、そんな言葉に気を留める事なく、所狭しと並べられたご馳走に手を伸ばす。


――今日は、私のストレス発散に付き合ってもらう為に、急遽仁美に声を掛けた。

お互いの職場近くのレストランに待ち合わせて、こうやってヤケ食いに付き合ってもらっている。


無言でバクバク食い荒らす私を見て、仕方ないな。と微かに微笑んだ仁美。

テーブルに頬杖をついて私を見つめるその瞳が、優しげに細められた。


「相変わらずだね~。なんかあった?」


そう、仁美は知っている。

何か上手くいかない事があったり、腹立つ事があったら、私は昔から暴飲暴食に走る事を。


常務にフラれてから一週間が過ぎた。

翌日会うのが決まづくて仕方なかったけど、勇気を出して出勤した。

案の定、常務は『無かった事』にして、私に接した。

だけど、決定的に違うのは私の目を見ない事。

業務的にモノを言って、極力私と話さないようにしている。

その事に、もちろんショックを受けた。


あの日の事を取り消せるなら、取り消したい。

以前のように、互いに言い合ったり、笑いあいたい。

だけど、その道を消してしまったのは私。

越えてはいけない一線を通り越してしまった、私のせい。


まだ好きなのに。

こんなにも好きなのに。

どうすればいいか分からない。


無心になって、ひたすら口と手を動かす。

この暴飲暴食が自分の悪い癖だと分かっているのに、こうやって食に走っている時は心が満たされて安心する。

それなのに。


「ふ――…」


深い溜息と共に、持っていたフォークを皿の上に置いて固まる。


なんでだろう。

ちっとも、心が満たされない。

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