嘘つきな君
「菜緒、一人で帰れる?」
「失礼だな~。小学生じゃあるまいし、酔ってても電車くらい――」
「バカ。誰がそんな事気にした。足よ、足」
「あぁ、そっちか。うん、もう痛みは和らいだから大丈夫」
店先で私の足を心配そうに見下ろした仁美に、ニッコリと笑ってみせる。
すると、仁美は安心した様に微笑んでから空に向かって大きく背伸びをした。
「よし、じゃぁ帰りますか」
「仁美、明日も仕事でしょ?」
「マスコミに休みはないわよ。あ~専業主婦になりたい」
「何それ」
ケラケラとお互い笑い合ってから、それぞれの駅に向かって足を向ける。
一度振り返って手を振った後、微かに足を引きづりながら駅へと向かった。
すると。
「芹沢!」
不意にどこからともなく声を掛けられて、その場で立ち止まる。
キョロキョロと辺りを見渡すと、少し離れた所からこっちを向いて手を振る1人の男の人が見えた。
その見覚えのある姿を見て、目を見開く。
「菅野先輩!!」
「あ~やっぱり芹沢だ。声かけてから、違ってたらどうしようかと思って、不安になったんだよ」
「アハハっ、あんな大きな声で呼んだのにですか?」
笑顔で私に駆け寄ってきて、そんな事を言う先輩にケラケラと笑う。
そんな私を見て、先輩も可笑しそうに笑った。
先輩と会うのは、あの日以来だ。
私と、彼が初めて出会った、あの日以来。