嘘つきな君




「相変わらず、よく転ぶんだな」

「それ、仁美にも言われました」


私の右足を見てそう言った先輩に、拗ねるように口をすぼめる。

すると、淡いキャンドルの光が灯るカウンターで、クツクツと笑う先輩の笑い声が隣から聞こえた。


ゴメンゴメンと謝りながら、グラスを傾げてお酒を飲む先輩。

私も合わせるようにグラスを傾けて、お酒を流し込んだ。


かれこれ2時間程、思い出話やお互いの近況について話している。

昔から聞き上手、話上手の先輩とは会話が尽きない。

他愛もない話でも楽しそうに聞いてくれる先輩は、以前と全く変わらない。


「それにしても、素敵なお店ですね。先輩の行きつけなんですか?」


ぐるりと辺りを見渡して、そう言う。

都内のホテルにあるバーに来た私達。

座り心地の良さそうなソファーが、広い店内にポツリポツリと置いてある。

各テーブルにはキャンドルが揺らめいて、微かに店内からクラシックの音楽が流れている。


モダンでお洒落なお店。

いかにも、高そうだ。


「いや。俺も教えてもらったんだ」

「そうなんですか?」


頬杖をつきながらグラスに口をつける先輩に再び視線を向ける。

すると、伏し目がちだった瞳をゆっくりと上げて、じっと私を見つめた先輩。

そして。


「大輔に」


そう言った。
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