嘘つきな君
◇
「相変わらず、よく転ぶんだな」
「それ、仁美にも言われました」
私の右足を見てそう言った先輩に、拗ねるように口をすぼめる。
すると、淡いキャンドルの光が灯るカウンターで、クツクツと笑う先輩の笑い声が隣から聞こえた。
ゴメンゴメンと謝りながら、グラスを傾げてお酒を飲む先輩。
私も合わせるようにグラスを傾けて、お酒を流し込んだ。
かれこれ2時間程、思い出話やお互いの近況について話している。
昔から聞き上手、話上手の先輩とは会話が尽きない。
他愛もない話でも楽しそうに聞いてくれる先輩は、以前と全く変わらない。
「それにしても、素敵なお店ですね。先輩の行きつけなんですか?」
ぐるりと辺りを見渡して、そう言う。
都内のホテルにあるバーに来た私達。
座り心地の良さそうなソファーが、広い店内にポツリポツリと置いてある。
各テーブルにはキャンドルが揺らめいて、微かに店内からクラシックの音楽が流れている。
モダンでお洒落なお店。
いかにも、高そうだ。
「いや。俺も教えてもらったんだ」
「そうなんですか?」
頬杖をつきながらグラスに口をつける先輩に再び視線を向ける。
すると、伏し目がちだった瞳をゆっくりと上げて、じっと私を見つめた先輩。
そして。
「大輔に」
そう言った。