嘘つきな君
悲しい空気が私達2人の間に流れる。

そんな空気を打破するように、先輩が明るい声を発した。


「学生の頃は楽しかったよな~。毎日が輝いていて」


その言葉に、涙を拭って口角を上げる。

笑えてなんて、いないんだろうけど。


「今思えば、私もそうだったかもしれないです」


将来はどんな人になろう。

何をして、何を見て、どうやって生きていこう。

沢山の未来が目の前に用意されていて、未来が輝いていた。

選択肢が多すぎて迷ったり悩む事もあったけど、それはとても贅沢な事だったんだと思う。


「俺は、働き出した途端、自分がまるでロボットになったみたいだと思った」

「ロボット?」

「あぁ。決められた毎日をこなして、ただ時間が過ぎていく。自分が社会の歯車の一つに過ぎないと分かった瞬間、俺は誰の為に生きているのか分からなくなった」

「――…それは、きっと。夢みる事が出来なくなったからですよ」


毎日に輝きが無くなったのは、きっと自分の未来が見えてしまったから。

子供の頃の様に、無限に広がるものが無くなったから。


容易に想像できる未来が目の前にあるから、安全な道を歩こうとする。

楽な方に楽な方に足を進めて、ただ単調な毎日を送る。

私はそれでも、いいと思っていた。

変わらない日々の中で、小さな幸せを見つけれればそれで良かった。


でも、常務に恋して私は変わった。

例え今目の前にある道が障害物だらけでも私は進みたいって思う。

その先に彼がいるなら、どこまでも。


「そうかもな」


私の言葉を聞いて、どこか自嘲気に笑った先輩。

そんな姿を微かなクラシックの音楽が鳴る中、ぼんやりと見つめる。


そんな時、目の前に置いてあったキャンドルが何の前触れもなく突然小さく揺れた。

そして。
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