嘘つきな君


「相変わらずお喋りだな。お前は」


不意に聞こえたその声に、世界が動きを止める。

胸の奥を震わせる様なハスキーボイスに、息を詰める。

そして、驚いて勢いよく振り返った先に見えた光景に、目を見開いた。


嘘、と思って。

どうして、ここに? と思って。


「――…じょ、常務」


驚きすぎて、声が擦れた。

見上げた先には、少し不機嫌そうに眉間に皺を寄せて私達を見下ろす神谷常務の姿があった。

その姿を声を無くして見つめる。


どうしてここに? とか。

いつからここに? とか。

聞きたい事は浮かぶのに、声になってくれない。

ただ茫然と、その姿を見つめる。

すると。


「やっと来た」


軽いパニックを起こす私を他所に、隣から小さな溜息と共に先輩の声が聞こえた。

その言葉に驚いて隣に目をやると、面白そうに微笑みながら頬杖をついて私達を見つめる先輩がいた。

その姿に、更に驚きが増す。

だけど、目を見開いた私に目もくれずに、先輩は悪戯っ子のように微笑みながら口を開いた。


「感謝してほしいくらいだけどな? 俺はいつもお前の胸の内を代弁してやってるんだけど」

「えらくご機嫌だな、菅野」


不敵に笑う先輩とは対照的に、猛烈に不機嫌そうに言葉を吐き捨てた常務。

その間に挟まれて、言葉を発した方をキョロキョロと交互に見つめる。


待って待って。

どうなってるの!?

なんで常務がここに!?

おまけに、先輩はここに常務が来る事を知っていたの!?


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