嘘つきな君
真実
――カチャ。
ドアが開いて、真っ暗な部屋が目の前に広がる。
そのまま真っ直ぐ前を向きながら、恐る恐る足を前に出して部屋の奥へと進んでいく。
そんな私の後ろをついてきた彼が、徐に声を上げた。
「このホテルのオーナーが友人で、新しいバンケットが出来たから見に来てくれって」
「そう……なんですか」
「そうしたら、せっかくだから泊って行けって、部屋取ってくれたんだ」
ベットサイドの小さな明かりだけ点けて、無造作にスーツのジャケットを椅子に掛けて、そう言った常務。
それを横目に部屋の奥にある大きなガラス窓に近づく。
徐に薄いレースのカーテンを横に引いたと同時に、目の前に現れた景色に思わず目を細めた。
「スイートルームなんて、贅沢だよな」
窓際で佇む私の後ろで、小さく笑ってそう言った彼。
視線を上げると、ガラス越しにネクタイを緩めながらこちらを見ている彼と目が合った。
それだけで、私の胸は甘い痛みに疼く。
そのまま何も言わずに、ただ佇む私達。
無理矢理自然にいようとするけれど、そんなのはもちろん無理で。
強張った自分の顔が、大きな窓に映っていた。
そんなどこか重苦しい空気に耐えかねて、紛らわすように窓の外に見える夜景に目を凝らす。
そのまま、そっと窓に手を添えると、ひんやりと冷たい感覚が指先に広がっていく。