嘘つきな君
再び窒息しそうな沈黙が私達を包む。
音を無くした世界で、ただただ俯く彼を見つめる。
すると。
「初めは抗っていた。広がっている未来に光が見えなくて」
顔を伏せたまま、小さくそう呟いた彼。
その表情が見えなくて、不安になる。
その姿が今にも消えてしまいそうで、不安になる。
だから、吸い寄せられるように足を前に出して彼の元まで向かう。
そして、俯く彼の側に膝をついた。
そんな私に驚いた彼は一瞬目を見開いたけど、再び『常務』の仮面をつけて口を開いた。
「誰もが羨む神谷ホールディングス社長というポストは、俺にとっては息苦しい牢屋でしかない」
「――」
「人の暖かさを感じない、業務的にただ淡々と過ぎていく毎日。重役達の機嫌取り。中身のない会話。決められた未来に吐き気がした」
ソファに座った彼の横顔が、淡いライトに照らされる。
どこか吐き捨てるようにそう言った彼だけど、今にも崩れてしまいそうな程脆く見えた。
弱い自分を、必死に強い自分で塗り固めているように見えた。
そう思ったら、悲しくて泣きだしそうになる。
「だけど、俺はそれらから逃げる事はできない。それが俺が唯一できる社長への恩返しでもあり、俺の役目で、亡くなった兄貴に出来る唯一の事だから」
まるで自分に言い聞かせる様に、そう言葉を落とした常務。
その姿に、胸が押し潰されそうだった。
こんなにも、追い詰められていたのかと思って。
その事に、今まで気づけなかった自分を責めた。
それと同時に、私の未来も閉ざされていく。
私の想いが、この手の中から零れて消えていく。
彼が神谷ホールディングスを継ぐという事。
それは、私と彼の未来が交わる事が無いという事。
そういう事――。
音を無くした世界で、ただただ俯く彼を見つめる。
すると。
「初めは抗っていた。広がっている未来に光が見えなくて」
顔を伏せたまま、小さくそう呟いた彼。
その表情が見えなくて、不安になる。
その姿が今にも消えてしまいそうで、不安になる。
だから、吸い寄せられるように足を前に出して彼の元まで向かう。
そして、俯く彼の側に膝をついた。
そんな私に驚いた彼は一瞬目を見開いたけど、再び『常務』の仮面をつけて口を開いた。
「誰もが羨む神谷ホールディングス社長というポストは、俺にとっては息苦しい牢屋でしかない」
「――」
「人の暖かさを感じない、業務的にただ淡々と過ぎていく毎日。重役達の機嫌取り。中身のない会話。決められた未来に吐き気がした」
ソファに座った彼の横顔が、淡いライトに照らされる。
どこか吐き捨てるようにそう言った彼だけど、今にも崩れてしまいそうな程脆く見えた。
弱い自分を、必死に強い自分で塗り固めているように見えた。
そう思ったら、悲しくて泣きだしそうになる。
「だけど、俺はそれらから逃げる事はできない。それが俺が唯一できる社長への恩返しでもあり、俺の役目で、亡くなった兄貴に出来る唯一の事だから」
まるで自分に言い聞かせる様に、そう言葉を落とした常務。
その姿に、胸が押し潰されそうだった。
こんなにも、追い詰められていたのかと思って。
その事に、今まで気づけなかった自分を責めた。
それと同時に、私の未来も閉ざされていく。
私の想いが、この手の中から零れて消えていく。
彼が神谷ホールディングスを継ぐという事。
それは、私と彼の未来が交わる事が無いという事。
そういう事――。