嘘つきな君
その言葉を聞いた瞬間、世界が色を放つ。
千にも万にも、眩しいほどに。
彼の色に溢れて、窒息してしまいそうになる。
聞けるはずのない言葉が、今、私に向けられた。
私と同じ想いが、今、私に向けられた。
心のどこかで、諦めていた。
立ちはだかるものの大きさに、どうする事もできないと。
諦めたくなんて無かったけど、そうするしかないと思っていた。
それでも、彼は私の気持ちを受け取ってくれた。
見なかった事にしないでくれた。
その気持ちを返してくれた。
言葉が出ない。
ただただ、常務が言った『好き』が心の中でコダマする。
そんな中、真っ直ぐに私を見つめる黒目がちな瞳。
その瞳が泣きじゃくる私を覗き込んで、細められた。
「分かっている。この気持ちがこの先芹沢を苦しめる事も、例え結ばれても……未来はないって事も」
「――うん」
「だけど……どうしても諦められなかった。自分を抑えきれなかった」
苦しそうに瞳を歪める常務。
分かっている。
常務がこの会社を捨てれない事を。
私達で未来を切り開く事が出来ない事も。
だけど、それでもいい。
私を選んでくれた。
それだけで、十分だと思ったから。
何度も頷く私の頬に、不意に大きな手が添えられる。
導かれるように顔を上げると、涙で濡れる頬を彼は指で優しく拭ってくれた。
そして、愛おしそうに私を見つめて瞳を細めた。
「好きなんだ。お前の事が」
もう一度紡がれた言葉に、唇が震える。
そんな私を見て、微かに笑った彼。
それでも、すぐに真剣な顔になって口を開いた。
「お前が選べ」
「――」
「この先、どうするかは、お前が選べ」