嘘つきな君
告げられた言葉に、目を瞬く。

だけど、その言葉の意味を理解してぐっと唇を噛んだ。


この手を取れば、私は常務の側にいれる。

だけど、その道は行き止まりで、光の当たらない道だと決められている。

だから、引き返すなら今しかない。


この手を取って、恋人になるか。

この部屋から出て、ただの常務と秘書になるか。


その選択を、彼は私に託した。

この手を取って、一番悲しむのは私だと彼は思っているから。

彼の未来を知った今、逃げ出す道を彼は私にくれた。


酷い、人。

やっぱり、この人は酷い人。


そんなの、彼の言葉を聞いた瞬間決まっているのに。

『好き』だと言われた瞬間、そんな事決まっているのに。

それでも、私に選ばそうとしている。

私達の未来を私に選ばそうと。


それが彼なりの優しさなのだろうけど、酷い人だと思う。

本当に。


そう思って、少し笑った。

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