嘘つきな君
覚悟を決めて、ゆっくりと彼の手を握る。

暖かいそれに触れただけで、体に電気が走ったように痺れた。


手を取った私を見つめる彼の瞳が、揺れる事なく私を真っ直ぐに見つめる。

そして、覚悟を口にした。


「それでも、いいです」

「え?」

「例え未来が無くても、傷つくと分かっていても、側にいたい」

「――」

「だって、こんなにも好きなんです」


そう言った瞬間、そのまま手を引かれて体を引き寄せられた。

倒れ込んだ先には、大好きな常務の広い胸。

暖かい腕の中に閉じ込められて、私達の体が1つになる。


耳元で、彼の熱い吐息が聞こえる。

その熱を感じて、彼の背中にそっと腕を回した。

そして、そのまま強く抱きしめ合う。

言葉なんてもの交わさなくても、こうやっているだけで互いの気持ち、十分伝わる。

涙が出る程、伝わる。


抱き締められたまま息を吸えば、大好きなジャスミンの香りが香った。

その香りが、これが夢ではないのだと教えてくれる。

その瞬間、嬉しさでまた涙が溢れた。


大好きで大好きで、壊れてしまいそうな程想った人が、私を好きだと言ってくれた。

そんな奇跡が、嬉しくて堪らない。


「好き」


零れた私の言葉を聞いて、抱きしめていた腕が緩む。

そっと見上げれば、黒目がちな瞳に私が映っていた。


「好きなの……誰よりも」


嬉しそうに細められた姿に返すように、私もそっと微笑む。

あぁ、愛おしくて堪らない。
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