嘘つきな君
あんなに嫌っていたはずなのに。
悪魔みたいな男だと思っていたはずなのに。
二度と関わりたくないと、思っていたはずなのに――。
もっともっと、抱きしめて欲しい。
もっともっと、彼の腕の中に溺れていたい。
もっともっと、私を見つめて欲しい。
今は心から、そう思う。
例え、この恋に期限があるとしても。
終わりが決められているとしても。
私はここにいたい。
――彼の側にいたい。
「んっ……っ」
再び燃える様に熱いキスが降ってくる。
唇が離れた瞬間震える瞼を開ければ、愛おしげに瞳を細めて私を見つめる常務がいた。
熱い吐息さえも飲み込んで、溶けそうな眼差しが注がれる。
その姿に、胸が押し潰されそうだった。
涙が込み上げてきて、頬を伝う。
だけど、思う。
この涙は一体何の涙なんだろう、と。
いつかは、この手を離さなければいけないという悲しみから?
変える事のできない未来への苛立ちから?
それとも、目の前の彼への込み上げる想いから?
きっと、全部だと思う。
複雑に絡み合った、感情の末だと思う。