嘘つきな君
先輩の姿に気づいた男性が、ゆっくりと私達の方に近づいてくる。

だけど、どこか見覚えのありすぎるその姿を見て、徐々に目を見開く。

そして、私達の元までやって来たその姿を見て、唇が震えた。

――もちろん、怒りで。



「あぁ――っっ!! さっきの悪魔っ!!」



だから、勢いよく立ち上がって叫んだ言葉は決してわざとじゃない。

もちろん。

無礼にも男性に指をさしたのもわざとじゃない。


私の奇行を見て、勢いよく振り返って目を見開く先輩と仁美。

そして、静かなジャズの音楽を聞いていた店内の客達も、同じ様に私に視線を送った。


その視線で我に返った私は、一気に背筋が凍って慌てて隠れる様に椅子に腰かけた。

それでも。


「随分な挨拶だな」


聞こえてきたのは、独特のハスキーボイス。

心臓を震わせる様な、どこか甘い声。


恐る恐る伏せていた顔を上げると、酷く不機嫌な顔をした男性が私を睨みつけていた。

その姿を見て、今日は厄日だと、心の中で呟いた。

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