嘘つきな君

「あぁ」

「お疲れ様」

「あ~眠ぃ~」


短くそう告げた後、欠伸を噛み殺した常務。

その姿を見て、ケラケラと笑う。


まるで猫の様に私に寄り添う彼が。

常務という仮面を外した彼が。

私にだけ見せてくれるその姿が。

嬉しくて堪らない。


付き合いだして、もう1週間が過ぎた。

もちろん職場では、常務と秘書という会話しかしない。

でも、こうやって2人きりの空間になると、そんな仮面外して素の自分達に戻る。


「お疲れだね」

「会議は苦手なんだ」

「まさか寝てないよね?」

「当たり前だろ」


不敵に笑った彼が、椅子に項垂れるように座る。

連日の会議続きで、相当疲れているんだろう。

みんなの前では、もちろん疲れなんて一切見せないけれど。


そっと、項垂れた彼の髪を撫でる。

ルーズにセットした黒髪が、私の指先に優しく絡まる。


そんな事をしていると、突然顔を上げた彼。

そして、ギッという椅子の軋む音と共に、彼の腕が伸びてきた。

後頭部に手を添えて、顔を引き寄せられたと同時に重なった唇。

突然の事で目を閉じる事も忘れた私は、ポカンとしたまま離れていく常務を見つめた。

すると。


「充電」


間抜け顔の私に、ふっと片方の口端を上げて微笑んでそう言った彼。

その途端、私の頬が一気に熱を持つ。
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