嘘つきな君

仁美の言葉に頷きもせずに、ニッコリと無理に笑う。

ピクピクと痙攣しそうな頬を吊り上げて。

平気だ、とでもいうように。


「分かってる」

「分かってないっ!! あんたは、その言葉の意味を、全然分かってないっ!!」

「理解してるよ。ちゃんと、覚悟もできてる」


目を吊り上げて、必死にそう訴える仁美から逃げるように視線を下げる。

お願いだから、否定しないでと思って。


「いつか別れなきゃいけない事も、分かってる。その時の覚悟も、ちゃんとできてる」

「神谷さんは?」

「理解してる。それに、初めから、お互いそれを覚悟で付き合いだしたから」

「――」

「今はただ、好きなだけなの。常務も私を好きになってくれた。だから一緒にいるの」

「いつか別れるって、分かってるのに?」

「それでも、一緒にいたいの」

「――」

「例え、限られた間だけでも一緒にいたいの」


ゆっくりと上げた視線の先には、悲しそうな顔で私を見つめる仁美がいた。

理解できない。

そう顔に書いてある。
< 219 / 379 >

この作品をシェア

pagetop