嘘つきな君
長い長い沈黙が私達の間に流れる。
互いに視線を落として、口を噤んだ。
それでも。
「――今……思い出した事があるの」
その沈黙を破ったのは、小さな仁美の声だった。
私と視線を合わせないまま、眉間に皺を寄せて言葉を落とす。
その姿を見つめながら、コクンと頷いた。
「ずいぶん昔に聞いた話だけど」
「うん」
「少しだけ、噂になった事があるの」
「噂?」
どんな事だろうと思って首を傾げる。
だけど、マスコミ関係にいる仁美の事だ。
きっと、どの噂話よりも正確なはずだ。
「神谷グループと繋がりの深い園部グループが、神谷と婚姻を結ぼうとしてるって」
「――園部…」
「図った様に、園部グル―プには神谷さんより5つ年下の令嬢がいる」
「――」
「もし、政略結婚があるなら、相手は園部だと思う。神谷グループにとって一番利益になるのは、園部グループだと思うから」
「――…そっか」
小さく呟いた言葉が、消えてなくなる。
あまりにも小さかったから、仁美に届いているか分からない。
だけど、その言葉を聞いて、なんだか可笑しくなった。
ケラケラと笑いたくなった。
ポッカリと、胸に開いた穴が私にそうさせる。
悲しさや苦しさに飲まれて、私を狂わせる。
そっか。
彼と一生歩んでいく人は、もう決まっているんだ
もしかすると――。なんて、浅はかな幻想を描いていた自分が心の奥底にいた事を今更知る。
その瞬間、馬鹿だな。と自嘲気に笑った。