嘘つきな君
「いい人なの?」
「菜緒……」
「いい人かな」
どうせ変わらない未来なら。
それならせめて、彼が幸せになれる人がいい。
私じゃなくても、笑顔を見せられる相手がいい。
互いを支い合える相手がいい。
彼が愛せる、相手がいい。
彼を愛してくれる、相手がいい。
「いい人だったらいいな」
それでも胸を掻きむしられる、この気持ちは消えない。
彼の隣に、私じゃない誰かがいる事なんて耐えられない。
それでも、それは初めから分かっていた事。
だったら、せめてその人がいい人ならいい。
彼の事、誰よりも好きだから、誰よりも幸せになってほしい。
ぐっと歯を食いしばって、いつか訪れる未来を見据える。
私がすべき事を忘れてはいけない。
それが、私の選んだ道だから。
「その人も、彼を好きになってくれるかな」
「――あんた……馬鹿よ」
「うん。そうかもしれない」
唇を噛みしめた仁美に、自嘲気に笑ってみせる。
本当にそうだと思うから。
「だけど、それが2人で決めた事なら私は何も言わない」
「うん……」
「それでも、なんかあったら言いなさい」
「――」
「受け皿くらいにはなれるから」
未だ納得のいかない顔の仁美だったけど、その言葉は暖かで、優しかった。
「ありがとう、仁美」
ニッコリと笑った私を見て、一度だけ仁美は小さく頷いた。
その姿を見た後、グラスに残っていたワインを一気に飲み干す。
酔って、何もかも忘れてしまえと、願いながら――。