嘘つきな君

「で、何ですか? こんな朝早くから」

『仕事だ』

「まだ出社時間じゃないですよ」

『お前、超低血圧だろ』

「えぇ」

『まぁいい。早く仕度しろ』


相変らず、俺様口調の神谷常務。

趣旨を話さずに淡々と言葉を落としていく。

その横暴さに、徐々に眉間の皺が深くなっていく。


「あの……意味が分からないんですけど。私、まだ眠い……」

『いいから仕度しろ』

「だから――」

『集合場所は成田だ』

「へ? 成田?」

『今日の11時の便でシンガポールへ行く』


いつもの調子で告げられた言葉に、目が点になる。

ベットの中で、毛布に包まりながら無言になってしまった。

一瞬、聞き間違いかなと思ったけど、確かに彼は『シンガポール』と言った。

そのぶっ飛んだ行先に、瞬きを繰り返す。

それと同時に、ポクポクポクと頭の中で木魚を叩く音が聞こえた。



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