嘘つきな君
「飛行機のチケットだ。無くすなよ」
「無くしませんよ。子供じゃあるまいし。というか、優しい言葉の一つくらいかけたらどうです?」
「――簡単に打合せをする。来い」
サラリと華麗に私の言葉を無視した彼を見て怒りが湧き起こる。
そして、あろうことか、そう言うや否や彼はクルリと踵を返して歩き出した。
その姿にカチンとなりながらも、隠れて拳を握るしか出来なかった。
――…常務と付き合いだして、早2ヶ月。
相変らず、仕事は止めどなく入ってくる。
ここまで急ではないが、突然の会合や会議などは日常茶飯事。
それでも、常に彼の隣にいる事が許される秘書という仕事は、今の私達には合っているのかもしれない。
だって、神谷ホールディングス常務だなんて地位の人と、そんな簡単に会ったりは普通できない。
もし私が広報のままだったら、月に数えるくらいしか会えなかっただろう。
そう思えば、秘書になれた事はラッキーだったのかもしれない。
少しの時間も、私達は無駄にしたくないから。
それでも、仕事中の彼は信じられない程厳しい。
というか、見ての通り超俺様。
初めて会った時を思い出させるような、悪魔っぷりだ。
そのオンとオフの使い分けは素晴らしいと思うが、もう少し仕事中も優しくしてほしいもんだ。
まだ、まばらにしか人のいない成田空港を彼の後を追いながら見渡す。
ガラス張りのホールに、眩しい程の朝日が差し込んでくる光景はとても綺麗で思わず目を細めた。
そんな中、何も言わずに長い足を交互に出して進んでいった彼。
そして、ホールの一番端にあった沢山並んだ椅子の一角に腰を下ろした。