嘘つきな君
怒り狂いそうな自分を一度溜息で落ち着かせてから、理性を総動員して殴りかかりそうな拳を押さえる。
落ち着け私。
こんな所で醜態をさらして、どうするの。
こんな悪魔みたいな男、相手にしなきゃいいのよ。
「――私、お酒貰ってきます」
そう言い残して勢いよく立ち上がった後、一度神谷さんを睨みつけてから、丸い形の店内の真ん中にあるバーカウンターへと足を進めた。
「ニコラシカ1つ」
淡いライトで灯される、どこか幻想的なバーカウンターに着くや否や、お得意のお酒を注文する。
畏まりました。と丁寧に頭を下げたバーテンダーを横目に、その向こうに見える夜景に目を落とした。
すると。
「いいバーだな」
突然隣から聞こえてきた、独特のハスキーボイス。
隣を見ると、先程までスカした顔をしていた神谷さんがそこにいた。
その姿を見て、げぇっと思う。