嘘つきな君
っていうか、よく私に話しかけられたもんだな。

あからさまに私が毛嫌いしているの分からないのか。


「一緒に来る相手によるかも」

「そう噛みつくなよ」

「何の用ですか」

「ここはバーカウンターだろ? 酒を貰いにきたんだ」

「あっそ」


フイッと視線を前にずらして、素っ気なく言葉を落とす。

すると、ふっと小さく笑ってバーテンダーに飲み物を頼む奴。


神谷 大輔。


私の意地悪な言葉にもめげずに、淡い光を灯すバーカウンターに頬杖をついて、目の前の夜景を楽しんでいた。

それにしても、さっきまで言い合っていたのに、そんな事全部忘れた様なこの態度。

逆に尊敬するわ。


それとも、あの意地悪っぷりは素なの?

だったら逆にどんだけ、ドSなの?


頭の中で悪態を吐きながら、チラリと隣にいる彼を盗み見る。


どこか退廃的な雰囲気が漂う、その横顔。

少しクセのある黒い髪。

綺麗な二重の瞳の縁に並ぶ、長い睫毛。

男性らしい大きな手に、長い指。

その姿に、思わず心臓が小さく鳴る。


一度目を逸らすも、再び視線は自然とテーブルの上で組まれた奴の手に移動する。

目的の指は、左薬指。


――…独身だ。
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