嘘つきな君
「あと1時間かぁ……」
目の前にある画面に映し出された日本までの到着時間を見て呟く。
すると、隣に座っていた彼が読んでいた本から視線を上げた。
「さっきから同じ事言ってるけど」
「さっきは到着まで、あと2時間だったのに」
「順調に進んでるな」
「嬉しくない~」
どうなるかと思っていたシンガポールへの初海外出張も、問題なく終わった。
次の日にシンガポールを観光しようと約束していたのに、常務の言う通り全く足が使い物にならなくて、飛行機までの時間をホテルで過ごすという、なんとも悲しい結果になった。
「マーライオン、見たかったなぁ」
「また連れてきてやるよ」
「本当っ!?」
「あぁ」
常務の言葉に、目を輝かせる。
すると、そんな私を見て常務は優しく瞳を細めた。
あぁ。
頬が緩んで仕方ない。
貰った約束が嬉しくて、どうしようもなくなる。
こんな些細な約束が、宝物になる。
それは、2人にはまだまだ未来がある事を示しているから。