嘘つきな君
「もちろん伝えておきます。では、私はこちらで失礼いたします。――柳瀬、車を」
「かしこまりました」
いつの間にか彼女の隣に立っていた柳瀬さんが、小さく私達に会釈をして部屋を後にする。
それでも、去り際に私の顔を見て瞳を細めたのを見逃さなかった。
言葉を無くして、ただ立ち尽くす。
そんな私に、ニッコリと上品に微笑んだ彼女。
それでも、直ぐに視線を常務に向けて更に深く微笑んだ。
「次お会いした時は、お返事を聞かせて下さいね、大輔さん」
そして、意味深な事を言って、再び現れた柳瀬さんと一緒に部屋を後にした。
残ったのは、静寂だけだった――…。
カチカチと秒針の音がする。
頭の中が真っ白で、何も考える事ができない。
そんな中。
「芹沢」
小さく呼ばれた名前。
重たい頭を上に向けると、私を見下ろす彼がいた。
どこか、影をもって。