嘘つきな君
「芹沢――…」

「私、コーヒー淹れてきますね」


再び訪れた微かな沈黙の後、もう一度私の名前を呼んだ彼の声を遮る。

そして、ニッコリと笑顔を作った。


「お疲れでしょう? 少し休んではどうです?」


聞きたくない。

何を聞かされて、これから何が起こるかなんて。

あなたの口から聞きたくない。

今は、聞きたくない。


ううん。

まだ、聞きたくない。

まだ、心の中が整理できてない今は、聞きたくない。

聞いてしまったら、きっと壊れてしまう。


「疲れた時は甘いものですよ。何か持ってきますね」


だから、どうか。

何も知らないと装う私の嘘に付き合って。

無理に笑う私の嘘に付き合って。


「……あぁ、頼む」


そんな私を見て、ポツリとそう言った彼に微笑み返す。

いつものように、ニッコリと。


今にも泣き出しそうな心を抑え込んで。

今にも震えそうな足に力を入れて。

あなたの隣に立つ。


「すぐに、お持ちしますね」




ねぇ。

あなたは、さっき。

私に何を言おうとしたのかな?


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