嘘つきな君
そんな時、視線の先に映ったのは磨き上げられた革靴。
恐る恐る視線を上げると、柳瀬さんが私をじっと見つめていた。
その瞬間甦る、言葉――。
『ご存知でしょう? 2人の行く末は』
そうだ。
今、目の前にいる人が、彼の隣に立つ事を許された女性。
私が譲らなければいけない女性。
彼の笑顔も、大きな手も、広い背中も、私の名前を呼ぶ声も。
全部、彼女のもの――…。
「すいません。私、仕事がありますので……」
我慢できなかった。
涙が零れてしまいそうで。
壊れてしまいそうで。
自分が保てない気がして。
彼女の事を憎んでしまいそうで。
それでも。
「待って」
逃げる様にこの場を立ち去ろうとした私を引き留める、声。
その声に反応して、唇を噛みしめたまま、必死に笑顔を張りつけて振り返る。
すると。
「少しだけ、私の話し相手になってくださらない?」
告げられた言葉は、なんとも残酷なもの。
思いもよらなかったその言葉に、目を見開く。
「え……?」
「少しだけでいいの。私、あなたとお話ししてみたかったの」
「――」
「いけない?」
潤んだ瞳で、そう問われる。
本当は、今すぐにでもここから駆け出したい。
逃げ出したい。
でも。
「分かりました」
そう、答えるしかないじゃないか。