嘘つきな君
◇
風が冷たい。
秋の匂いが町中に充満している。
空を見上げれば、雲に半分隠れた月が覗いていた。
そういえば、彼と出会ったのは梅雨の時期だった。
シトシトと銀色の糸の様な綺麗な雨が降っていた、あの時期だった。
あれからもう、半年も経ったんだ。
ただ茫然と立ち尽くして、そんな事を思う。
それでも、頭がうまく働かない。
何かを考えても、すぐに真っ黒に染められてしまう。
あの言葉に、染められてしまう。
『彼のそばに、ずっとずっといれるんですもの』
考えたくないのに。
思い出したくないのに。
頭から離れてくれない。
それらを振り払う様に、ぎゅっと強く瞳を閉じた。
その時。
「芹沢?」
不意に聞こえた声に、瞳を持ち上げる。
そして、ゆっくりと声のした方へ視線をずらした。