嘘つきな君
「誰だってショックだろ。あんたが特別ってわけじゃねーよ」
そう言って、私の方に視線を向けた神谷さん。
そして、ニコリとも笑わずに真剣な表情でじっと私を見つめて口を開いた。
「それに、落ち込んで下ばっかり見てるより、ずっといいと思うけどな、俺は」
「――」
「もっと笑えよ。そしたら、何もかも上手くいく気がするから」
その表情と言葉に一気に顔が真っ赤になる。
それを悟られまいと、勢いよく顔を逸らして前を向いた。
「――う、ウマい事言って……さっき自分が私に何言ったか覚えてます!?」
「何? まだ根に持ってんの?」
「当たり前でしょ!? 神谷さん、人として性格歪みすぎっ」
「初対面の男にそこまで言えるお前も、いい勝負してんだろ」
バーカウンターを背もたれにしながら、仰け反って私の顔を覗き込んできた神谷さん。
その瞳から逃げようと、思わず手を上げて会話を断ち切る。
「す、すいません。お酒お代わり! アレキサンダー」
「お前、すっげー酒飲みだろ?」
「違いますよ!」
「ぽろっと口から出る酒が、マイナーすぎ」
「失礼ねっ! 物覚えがいいって言ってよ!」
「は?」
「これでも、物覚えはいい方なんです! 一回飲んだお酒とか、一回会った人の顔とか名前は絶対に忘れないんだから!」
酒飲みの烙印を押されそうな事態を必死に抵抗する。
だって、酒飲みの女って響きが悪い!