嘘つきな君
「あ、見て!! うちの会社が見える!!」
「どこ」
「ほら、あそこ!!」
「あ~、確かに」
宝石を散りばめた様な景色に一気にテンションが上がって、繋がれた手を放してバルコニーの端まで駆ける。
そんな私の隣に並んで、クスクスと笑う彼。
「綺麗~」
「そういうと思った」
「常務には勿体ない景色ですね」
「なんで」
「だって、カーテン閉じっぱなしだし」
「――」
夜風に流れる髪を押さえて、キラキラと輝く夜景を見つめる。
それでも、時折吹く風に身を震わせた。
すると。
「――っ」
突然後ろから、何かを肩にかけられた。
そして、それと同時に優しく後ろから抱きしめられる。
「風邪ひく」
驚いて後ろを振り向くと、毛布ごと私を抱きしめる常務がいた。
大きな腕の中に、すっぽりと収まる自分の体。
その瞬間、大好きなジャスミンの香りが胸いっぱいに広がる。
「あったかい」
かけられた毛布の端をギュッと掴んで呟く。
嬉しくて、幸せで、無意識に頬が上がる。
体の前にあった彼の手に、そっと自分の手を添えた。
冷たかったお互いの手が、互いの熱を分け合って温かくなる。
どれだけ、そうして抱きしめ合っていただろう。
抱きしめられる世界の中で、穏やかな気持ちのまま輝く世界を見つめる。
すると。
「見ろよ」
「え?」
「月が出るぞ」
不意に耳元で声が聞こえて、上を向く。
すると、さっきまで雲に隠れていた月が、ゆっくりと顔を覗かせた。