嘘つきな君

「綺麗~。なんだか大きく見えますね」

「そうか?」

「そうですよ」


金色に輝く三日月。

いつもと変わらない月なのに、いつもの何倍も綺麗に見えた。

きっと、それは彼が側にいるから。

彼が側にいるだけで、世界はこんなにも美しく輝く。

ちっぽけな私を、輝かせてくれる。


「……このまま、夜が明けなければいいのに」


空を見上げたまま、ポツリとそう呟く。

胸の中の想いが、溢れて零れ落ちる。


だって、思うの。

こうやって私の世界が輝けるのは、いつまでなんだろうって。

この輝きを失ったら、私はどうなるんだろうって。

そう思ったら、逃げ出したくなった。

とても。


「ねぇ」

「ん?」

「このまま、私達の事、誰も知らない所へ逃げちゃおうか」


ぎゅっと彼の手を握って、そう呟く。

今にも零れてしまいそうな涙は、月を見上げているおかげで頬を流れない。


このまま、誰も知らない所へ。

シンガポールの時の様に、ただの恋人でいられる場所へ。

そんな場所があるなら、行きたいの。

でも――…。


「ゴメン。ただの独り言」


彼の言葉を待つ間に、自嘲気に笑ってそう言う。

そんな事できるはずなんて、ないのに。

そんな場所、どこにもないって分かっているのに。


静寂の中、冷たい風が頬を流れていく。

今にも零れてしまいそうな涙を、流れない様に歯を食いしばる。

すると。


「それも、いいかもな」


聞こえたのは、小さな声。

耳元で鳴ったのは、確かにそんな言葉。
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