嘘つきな君
どうして一緒にいられないんだろう。
こんなにも好きなのに、大好きなのに、どうして――。
こうなると分かっていた事なのに、この期に及んで悪あがきする自分がいる。
強く抱きしめられる腕の中で、バレない様に唇を噛みしめる。
込み上げてくる想いは、愛おしさばかり。
大好きだという、気持ちばかり。
今にも零れてしまいそうな涙を押し込めた時、不意に彼の腕の力が強まった。
不思議に思って微かに後ろを振り向くと、真っ直ぐに私を見つめる彼と目が合った。
そして。
「何があった」
唐突に告げられた言葉。
ドクンと大きく心臓が鳴って、微かに瞳が揺れる。
「言えよ。何があった」
何も言えない私を催促する声。
その声に、その瞳に、施錠されて動けなくなる。
だけど、逃げるように瞳をずらして下を向く。
すると、いとも簡単に体の向きを変えられて、互いに向き合う格好になった。
「逃げるな。菜緒」
真剣な眼差しで私を見つめて、私の名前を呼ぶ。
ズルイ。
名前を呼ばれたら、私が抗えない事を知っているくせに。