嘘つきな君
互いに何も言わずに、ただ見つめ合う。

そんな中、グルグルと回る頭。

喉の奥に言葉が詰まっている。


言うべきか分からない。

だけど、きっと彼は私を逃がしてくれない。

嘘をついても、彼にはバレてしまう。

それに、この事はいつかは通らなければいけない道。

逃げる事のできない道――。


覚悟を決めて、ゆっくりと視線を上に向ける。

そして、真剣な表情の彼を同じように真っ直ぐに見つめて、口を開いた。


「――…今日、園部桃香さんが、いらっしゃったの」

「それで?」

「――」


再び声が詰まる。

言葉にする事がこんなにも辛いとは思わなかった。

言葉にした瞬間、全て認めてしまったようで怖くなる。

そう思うと、私は現実から逃げてばかりだなと思って、可笑しくなる。


あぁ、もう涙が溢れる。

胸が押し潰されそう。


ダメだな私。

最近、泣いてばっかりだ。


辛い現実から逃げようとして、悲しい現実から目を背けて、訪れる未来を見て見ぬふりをしていた。

それでも時間は止まる事なく進んでいて、気が付いたら私だけ置いてきぼり。

私が同じ場所で足踏みしている間も、タイムリミットの時計は絶えず動いていた。

もう、終わりの時間は近い。


「ねぇ、常務。私達は、あとどれくらい一緒にいられるかな」


覚悟なんて、ちっともできていないのに。

彼の側を離れる事なんて、無理だと分かっているのに。


「園部桃香さん。常務の未来のお嫁さんなんでしょう?」


私を。

置いて行かないで。

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