嘘つきな君
私の必死の挽回の言葉を聞いて、一瞬固まる神谷さん。
その様子に思わず首を傾げる。
え? そんなに珍しい事でもないでしょ。
物覚えがいい人なんて、そこら中に転がってると思うけど。
だけど、私の中では一番の特技でもあり、自慢できる部分でもある。
幼い頃から親の仕事の影響で、各地を転々としていた私。
必然的に何度も転校を重ねて、その度に新しい友達の名前を必死に覚えた。
それが功を成したのか、何かを憶えるという事は誰よりも得意だった。
だから、一度言葉を交わした人や、どこかで飲んだ珍しいお酒の名前とかは、必ずと言っていいほど覚えている。
「――…へぇ」
一瞬の静寂の後、トントンと指先で持っていたグラスを叩いて、まるで何か思いついたかの様に意地悪そうな笑みを作った彼。
何故かその笑みに嫌な予感を憶えて、思わず体を少し後ろに引いてしまった。